『すくってごらん』
FF7Rをやり始めて、リップシンクとか眼球の動きとか、そういった細かい部分を見ながら感嘆の声を上げている。
Cyberpunk 2077でも自動生成で各言語リップシンクしていたけれど、FF7Rはカメラがキャラクターの顔に近寄ることが多い分、舌の動きまで見えてかなり良い。明らかに口の動きが遅れていて違和感があるけれど。
『すくってごらん』を観た。
原作は未読で、映画の情報もろくに知らないまま観た。
結論を言えば残念な作品だった。
新作とはいえ毎度の通り、普通にネタバレあります。
東京の本店でエリート銀行員としての日々を過ごしていた香芝 誠 (かしば まこと)は、とあるミスにより奈良の田舎にある支店へ左遷される。
左遷先への道中、1台のトラックが目の前に止まり声を掛けてくる。
「お兄さん、どこまで行くの。乗っていきなよ」
トラックの荷台には大量の金魚の入った大きな水槽。
怪しげな風貌にトラック、一度は運転手の提案を断る香芝だが、徒歩では2時間掛かり、タクシーは田舎ゆえに止まらないとの言葉に渋々送ってもらうことに。
到着した街を少し歩くと魅力的な女性を見つけ、香芝は吸い込まれるように後を追う。
着いた先は金魚すくいの店。
ここから金魚すくいと香芝、それを取り巻く人々との物語が始まる。
といった感じで、金魚すくいだとか金魚だとかがキーワードになる作品。
少なくとも原作ではそうなんだと思う。
ただ、この映画は金魚すくいにほとんど焦点を当てられていない。
この映画を見て1番初めに驚くことは、香芝の心情を文字として画面に映してしまう演出。
この雰囲気の作品にしてはこの演出はかなり尖っていて驚かざるを得ない。
この演出は原作の表現を再現したのかな……というふうに考えられるけれど、しかし浮き過ぎている。
しかもこの演出、中盤は現れない。
で、序盤だけかと思っていたら終盤に復活するもんだからもう。
次に驚くことは、ミュージカルだということ。
なんとなく邦画でありがちなラブストーリーに金魚すくいを掛け合わせて独自性を……というくらいだろうと思っていたところに先程の演出。加えてミュージカルとくる。
そして、おそらくこのミュージカルであるということがこの作品を駄目にしている一つの要因だと思う。
この映画で重要なのは
- 主人公のヒロインに対する恋心
- 金魚すくい という競技
- 音楽
主人公のヒロインに対する恋心
主人公の香芝はほぼ一貫してヒロインに対する恋心を基点に動いていて、この作品でこれを捨てることはできないし、そこはちゃんと押さえている。
金魚すくい という競技
冒頭からずっと金魚は作品の至る所に出てきて、金魚がカギになっている作品だと言うことは誰が見てもわかる。
それにタイトルからしても金魚すくいの重要性は火を見るよりも明らか。
しかし、金魚すくい はほんの少ししか出てこない。
びっくりするくらいおざなり。
音楽
ヒロインの生駒吉乃 (いこま よしの)はピアノが弾ける。
その事に気づき、更に彼女のピアノに魅了された主人公は、より恋心を膨らませる事になる。
ヒロインはヒロインで、人前でピアノを弾くことにコンプレックスがあり主人公がいくら頼んでも、人前での演奏を断る。
この作品は、このコンプレックスからヒロインを救うことが主人公にとってのひとつの目標になっている。
しかもミュージカル。
先にミュージカルがこの作品を駄目にしていると書いた理由は、ミュージカルという形式を取っている分、この作品における音楽は陳腐なものになってしまっているという点が大きい。
音楽がありふれた世界にさらに音楽を加えてもまるで輝いて見えない。
主人公がやたらヒロインにピアノを弾けと言う理由が理解できない。
なんだこいつ音楽に囚われてんのかと。
なんだこいつヒロインがやってることはなんでも大好きなんですかと。
それにミュージカルで歌っている分、尺が減って金魚すくいをまるで話の中に組み込めていない。
金魚すくいが出てくるのは冒頭と終盤だけ。
あいだは恋と音楽とどうでもいい主人公の左遷先での日常。
尺が足りていないのに、中盤に休憩とか言って更に音楽を追加していて本当に酷い。
休憩時間入れてる場合じゃないよ。タイトル見ろよ、掬わなきゃいけねえんだよこの作品はよ。
掬って救うから『すくってごらん』なんだろ。
主人公は言いたいことを溜め込んでいたら爆発して、結果左遷されたという過去を持つ。
左遷先でも自分の気持ちを溜め込んでいて、心の中で叫ぶ程度で止まっている。
最終的にはそういった点が解消されて(救われて?)、エリート故のプライドの高い人間から、もう少し柔軟な方向へと成長を……って感じだけれど、この成長も終わりも終わりで出てくるし、成長に至った過程も雑だからなんの感動もない。
なんの感想もない。
原作はおそらく
「金魚すくい や周りの人間によって人間的成長を遂げる主人公」+「進んでいく恋愛模様」
という感じなんだろうけれど、この映画は
「環境の変化で自分を省みた主人公の人間的成長」
という感じで、別になんでもいいやんという感が否めない。
掬って捕まえたけれど、一度リリースしてしまった金魚を主人公は「絶対こいつだ」と再度捕まえたり、煮干しが泳いでいるように見えたり、原作だったら必要なシーンだったんだろうけれど、映画では要らないシーンもいくつか。
周りの同僚なんかは完全にモブで、ほとんどキャラクター性は見えてこない。
それでも、さもメインキャラクターのように存在するシーンもあって謎。
本当になんで金魚すくいをちゃんと描かなかったんだよ。
練習させるコストを省いたのか?
いやいや、手元だけ映ってりゃいいんだからどうとでもなる。
そのくせピアノ弾かせたりはしてて、絶対リソースの振り方間違ってる。
映像は綺麗に魅せようとしているのがよく伝わる感じで、そんなに悪くはないと思う。
金魚を展示するアートアクアリウムと通じる感じで、観賞用の魚だしやっぱり綺麗。
金魚以外もほんと、着物姿で扇子をひらひらさせてりゃ綺麗に見えますわ。
ビジュアルは最高とは言わなくてもまあ普通に綺麗だし良いと思うけれど、いかんせんその他の部分で大いに損していると思う。
360°カメラを使ったカットとか、先述した心情をテロップとして出す演出とか、映像的に実験的、挑戦的な部分が大いに存在していて、その点で評価したいけれど、やっぱり原作ありの物語でここまで酷い脚本となると、加味しても無理かな。